FA-HAT 開発中

FA-HAT は、Raspberry Pi を FA (Factory Automaion) の現場で使うために、さきラボが独自に開発中の HAT (Hardware Attached on Top = Raspberry Pi 向けの拡張基板) です。

開発中のイメージ
  • ネジ端子による外部電源接続
  • 過電圧、過電流、逆接続保護
  • 一時的に電源を遮断する RESET ボタン
  • 外部電源の電圧を調整するための電圧計測機能
  • 高精度リアルタイムクロック
  • ソフトウェア制御対応の冷却ファン接続
  • 30mm ファンを搭載可能な切り抜き
  • 5V ~ 48V 対応の外部信号入力
  • 80V 2A 対応のリレー出力

よくある要件

Raspberry Pi を FA の現場に持ち込むためには、現場それぞれに異なる様々な要件をクリアする必要があります。FA-HAT の開発においては、以下のような要件を想定しています。

  • 高気温/低気温対応 (エアコンなしの制御盤: -10℃ ~ 55℃)
  • 油煙対策/防塵対策 (金属の切削くずなど、導電体の粉塵への対策を含む)
  • 24V 対応 (給電と I/O の接続、逆接続保護を含む)
  • 電源ノイズ対応
  • ブレーカーによる電源断への対応
  • インターネット接続のない環境への対応
  • 予備機や予備品の長期保管対応 (5年以上)
  • トラブル発生時に工場の保全担当者が対応できるようにする

FA-HAT を利用したシステム構築

FA-HAT を利用したシステムの実装方法を簡単に紹介します。

Raspberry Pi 制御盤を作る

Raspberry Pi 制御盤の例

粉塵や油煙による不具合を避けるため、Raspberry Pi は密閉度の高い箱に入れます。電源や、周辺設備と接続するための端子台なども一緒に収めます。いわゆる制御盤 (コントロールボックス) を作ります。

殆どの場合、完全に密閉することはありませんが、通気口を設けることもありません。発熱と放熱を計算して、制御盤内の温度が外気温 +15℃ 程度になるよう設計します。金属製のボックスは放熱と放射ノイズ対策に有効です。

Raspberry Pi は、予め DIN レール対応ケースに入れておくと制御盤に設置しやすくなります。

冷却ファンを実装する

真夏の工場では制御盤の周辺温度が40℃近くになることも珍しくありません。制御盤内の温度は55℃に達する可能性があります。Raspberry Pi を強制空冷する必要があります。

Raspberry Pi 本体やケースのサイズを考えると、冷却ファンのサイズは 30mm 前後にしたいところです。高性能なヒートシンクと組み合わせると冷却能力は十分ですが、問題は寿命です。30mm のファンは期待寿命が3万時間~4万時間程度で、24時間連続稼働した場合の寿命は5年未満ということになってしまいます。

そこで、FA-HAT には、ソフトウェア制御でファンを停止する機能を実装しました。ファンの稼働時間を最低限に制御することで、市販ケースに付属の冷却ファンでも5年以上の連続運転を実現できます。

安定化電源を利用する

FA-HAT では確実な給電方法として、安定化電源を接続することを想定しています。安定化電源は、以下の条件を参考に選定します。

  • 定格出力が消費電力の倍以上のもの (例: 5V 40W 電源)
  • 出力電圧調整機能のあるもの
  • 制御盤内に設置しやすいもの (DIN レール対応を推奨)

FA-HAT には安全のため「24V で逆接続しても壊れない」電源保護回路が実装されています。保護回路には過電圧保護と過電流保護の機能もあり、最大 100mΩ 程度の抵抗となるため、Raspberry Pi に給電される電圧は僅かに下がります。

保護回路による電圧降下は、通常は無視できる程度のものです。しかし実際には電源の出力電圧や、Raspberry Pi の電圧計測に誤差があるため、5.0V の電源では Undervoltage warning が発生する可能性もあります。ちなみに、あまり知られていないようですが、Raspberry Pi の入力電圧は 5.0V ではなく 5.1V (公式ドキュメント参照) だったりします。

FA-HAT には Raspberry Pi への供給電圧を計測する機能が搭載されています。電源の出力電圧調整機能と合わせて、Raspberry Pi への供給電圧を 5.0V ~ 5.1V 程度に調整することが可能です。

Raspbian for FA を利用する

標準の Raspbian は一般ユーザー向けのパソコンのような設定になっていて、FA 環境に適していません。詳しくは「Raspbian for FA」のページをご参照ください。

I/O の処理や死活監視の処理を PLC に実装する

非常停止や運転条件の制御から始まり、運転ランプや異常ランプの処理、全体的な処理の流れ、Raspberry Pi の死活監視などを PLC に実装します。

Raspberry Pi の安定性を高めても PLC の信頼性には敵いません。PLC には制御の専用機としての実績だけでなく、メーカーの保証やサポートも付いています。工場によっては、PLC に対応できる人は常駐しているかもしれません。さらに言えば、I/O の処理は Raspberry Pi よりも PLC で実装するほうが安価です。

工場向けのシステムを Raspberry Pi だけで実装しようというのは、FA を知らない人の身勝手な妄想です。そんなことをしたら、トラブルが発生した時に現場ではどうにも対応できないものになってしまいます。

生産ラインを動かす重要なシステムを作るために必要なのは、妄想ではなく、現実的な判断がです。PLC を使うのは現実的な判断なのです。

リアルタイムクロックで時間を管理する

現代的な OS はネットワーク接続を前提としていて、システム動作中の時間は NTP と CPU クロックで管理されています。そのため、高精度のリアルタイムクロックを実装しただけでは、時間の精度は改善しません。

FA-HAT では、専用ソフトとの組み合わせにより、システム動作中の時間をリアルタイムクロックの精度に合わせることができるようになっています。

今後の予定

初期バージョン製造中

初期バージョンの HAT を製造中です。部品の手配や組み立てを含めて6月20日頃に製造完了予定となっていて、そこから最終的な調整をして製品版となる予定です。

専用ソフトウェアの一部は6月20日以降の開発となるため、6月末頃の完成を予定しています。

HAT の販売とオープンソース

さきラボでは一般ユーザー向けのサポートを提供できないため、FA-HAT の小売りは予定していません。基板のガーバーデータ、専用ソフトのソースコードをサイト上に公開予定なので、自由に製造してください。

さきラボでの製造も可能です。必要な場合は、ページ下のフォームよりお問い合わせください。リードタイムは3週間程度です。

カスタマイズ

基本構成

FA-HAT は設計上、I/O とファンの切り抜きを削除すると上記の状態になります。裏面も同様にスペースが確保されていて、様々なカスタマイズに対応できます。

設計のデータが必要な場合は、以下のフォームよりお問い合わせください。

お問い合わせ

FA-HAT に関するご質問やご相談については、以下のフォームからお問い合わせください。

この記事の投稿者

崎 洋佑
崎 洋佑プログラマーもどき
さきラボの代表取締役。自称プログラマーもどき。
開発でよく使う言語は日本語。
IT技術よりも人が好きな、天然物のエンジニアです。