IIoT デバイスの 24V デジタル入力
一般的な接続方法
工場の制御系は、その多くが 24V の電源で動作しています。そのため、IIoT (Industrial IoT) の開発では「マイコンと 24V 信号との接続」が日常的に発生します。
最も良くあるのは、24V の信号を 3.3V のマイコンに入力するケースです。この接続方法として一般的なのは恐らく「フォトカプラ (オプトカプラ) による接続」だと思われます。以下のような感じで、24V の信号を 3.3V の Port に接続します。

机上の実験レベルであれば、これだけでも問題なく動作するのですが…
現実には、もう少し注意が必要です。
24V って何ボルト?
工場では、配線が 100m 以上の長さになることも珍しくありません。流れる電流の量によっては、電圧降下も発生します。例えば、0.5sq の配線 150m に 500mA の電流を流した場合、5V 以上の電圧降下が発生します。これは、省配線のシステムに良くある条件です。
電圧降下が発生することが事前に分かっている場合は、電源の電圧を上げておくという対応も珍しくありません。そのため、多くのスイッチング電源は 28V 程度まで (または +20% 程度まで) 電圧を上げることができるようになっています。
工場の 24V は、実際に 24V であるとは限らないのです。
- 電圧が低い場合:18V 程度まで下がっている場合がある
- 電圧が高い場合:30V 程度まで昇圧されている場合がある
フォトカプラと電流
仮に、東芝の TLP785 というフォトカプラを利用する場合について、考えてみましょう。
データシートによると、動作条件は以下の通りです。
- 順電圧 (VF) 1.0V (Min.) / 1.15V (Typ.) / 1.3V (Max.) (IF = 10mA)
- 推奨順電流 (IF) 標準 16mA / 最大 25mA (絶対最大定格 60mA)
なぜ VF の条件 (IF) が推奨動作条件の範囲外なのかは分かりませんが…グラフで見ると、IF = 25mA で VF 1.25V 程度のようです。16mA の時は 1.18V 程度でしょうか。では、計算してみましょう。
- 電源電圧 24V / IF 16mA / VF 1.18V = 1426.3Ω
少し余裕を見て 1.2kΩ の抵抗を選んだとして、実際に流れる電流の範囲を概算すると、以下のようになります。
- 最小 電源電圧 18V / VF 1.4V / 1.2kΩ ≒ IF 13.8mA
- 最大 電源電圧 28V / VF 1.1V / 1.2kΩ ≒ IF 24.1mA
適当に選んでしまいましたが、今回のケースでは 1.2kΩ の抵抗で問題なさそうです。
フォトカプラの寿命
フォトカプラの中には LED が内蔵されています。LED には経年劣化があり、点灯時間が長くなると明るさが暗くなります。
工場の設備は 10年以上 動き続けるのが普通です。10年間、通電時間 (Duty) 100% の信号入力があった場合、点灯時間は 8.8万時間 程度になります。
10年後にどうなっているのか…残念ながら、東芝TLP785 の寿命については正確なデータが見つかりませんでした。ただ、以下のページを見る限りでは、10万時間で 65% 程度に性能が低下する可能性があります。(TLP785 = GaAs 赤外 LED)
少し余裕を見て、10年後に 60% の性能になると仮定します。TLP785 には複数のグレードがあるので、仮に、最低変換効率 (CTR) 100% のグレードを選択したとします。この場合、10年後でも確実に流せる電流量は 13.8mA × 60% ≒ 8.2mA となります。
マイコン側のプルアップ
一般的なマイコンは、内部で入力のプルアップができるようになっています。抵抗値にして 50kΩ 程度が一般的でしょうか。3.3V 動作の時に 66μA の電流が流れる計算です。
マイコン内蔵のプルアップは非常に弱いため、工場の環境ではノイズに負けてしまう場合があります。そのため、IIoT デバイスの信号入力回路には、追加のプルアップ抵抗が実装されていることも珍しくありません。仮に 1kΩ でプルアップされていた場合、動作電圧 3.3V で 3.3mA の電流が流れることになります。
なお、今回の試算では、フォトカプラは劣化後でも 8.2mA の電流を流せるはずなので、3.3mA 程度のプルアップ電流は問題になりません。
三つの問題点
ここまでの設計で、特に問題となるところはありませんでした。ただ、意外と面倒だと感じられたのではないでしょうか?
フォトカプラは、かなり適当に扱っても動いてしまうため、初心者は設計が雑になりがちです。利用期間が1年とか2年のものであれば、それでも問題ありません。しかし、工場の設備は少なくとも5年、長いものでは数十年は動き続けます。工場での利用を前提とした IIoT デバイスの設計では、少なくとも10年くらい先のことを考えておく必要があります。
色々と考えると、フォトカプラによる実装というのは決して簡単な選択肢ではありません。特に「入力電圧の幅が広く、長く使われるという条件の時に設計が難しい」ということ。これが一つ目の問題点です。
フォトカプラによる実装には、あと二つ問題があります。一つは「部品が大きい」こと。もう一つは「消費電力が大きい」ことです。
さきラボの実装
さて、ここまでは接続する相手が「工場の 24V 」だった場合の話を続けてきました。しかし、現実の要求はもう少し複雑です。
よくあるのは「接続する相手は 24V かもしれないし、5V かもしれないし、ドライ接点かもしれない」という話です。接続方法はいくつかあって、実際に試してみないと分からないという状況は、普通にあり得ます。その上さらに「小さくしたい」「バッテリーでも動くようにしたい」という話になったら…どうでしょう。
ソリッドステートリレー + 定電流ダイオード
電圧と消費電力の問題にだけ対応する場合は、ソリッドステートリレー (Solid State Relay = SSR) + 定電流ダイオード (Current Regulative Diode = CRD) を利用する方法があります。
フォトカプラをソリッドステートリレーに、入力側の抵抗を定電流ダイオードに置き換えるだけです。実装面積は殆ど変わりません。
さきラボでは「絶縁が必要な場合」に、この実装を採用しています。
具体的な品番は説明しませんが、1.5V 1mA で動作する小型のソリッドステートリレー (IC) は普通に市販されています。これと 1.5mA の定電流ダイオードを組み合わせることで「入力電圧によらず、ごく僅かな消費電流で数十mAの電流を流せる回路」が出来上がります。
非絶縁接続
実は、IIoT デバイスに絶縁が必要となることは殆どありません。
一般的に、FA (Factory Automation) の世界で絶縁が必要になる理由は、接続先の機器や設備が離れた場所にあり、場所によって基準となる電位が異なっているためです。IIoT デバイスは、接続する機器と同じ場所に設置することが多く、電源も共有することが多いため、電位のズレが発生しません。
絶縁が必要ない場合には以下のような接続が可能です。「0V」はオープンドレイン出力を想定しています。

この接続方法のメリットは「プルダウン抵抗を一つ追加するだけで CMOS 出力にも対応できる」ところです。
CMOS 出力に対応した場合は以下のような回路になります。(+24V 側のプルダウン抵抗は、+3V3 のプルアップを 0V に落とせる程度の値に設定します。)

非絶縁接続にすると部品の点数は増えますが、小さな部品だけで実装できるため、実装面積は小さくなります。
逆接続保護
工場の中では、ネジ端子台などで配線を1本ずつ接続できるようになっていることが多く、接続を間違えるというのは日常茶飯事です。
この点、「一般的な接続方法」には逆接続の保護がありません。入力の + と - を逆に接続したら、フォトカプラが壊れてしまいます。「一般的な接続方法」を IIoT デバイスに実装する場合には、保護回路を追加する必要があります。
これに対して「さきラボの実装」では、部品の選定が適切であれば、入力の配線を逆に接続しても壊れません。
より良い入力回路を目指して
IIoT は比較的新しい概念です。マイコンで制御機器を作るという話は昔からありましたが、小さな無線デバイスを工場の設備に接続するようになったのは最近のことです。
実際にデバイスを作ってみると、最近のマイコンはとても省エネで、ノイズの影響も受けやすかったりします。それでいて「小さくしたい」という話になれば、簡単にはいきません。どんな現場の条件にも対応できる入力回路というのは、恐らく存在しないのだと思います。
たかがデジタル入力、されどデジタル入力です。さきラボではこれからも新しいデバイスへの対応を怠ることなく、入力回路の改良を続けていきたいと考えています。
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