テレワークを推奨しない理由

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新型コロナウイルスの影響で「テレワーク」という仕事の仕方が注目されています。さきラボでは設立時よりテレワークに対応していますが、推奨はしていません。

テレワークには様々な課題があります。さきラボではその多くを既にクリアしていますが、それでも、テレワークでは上手くいかないことがあります。新型コロナウイルスの蔓延を防ぐことは必要ですが、だからと言って仕事が進まなくていいとか、プロジェクトが破綻してもいいとは言えないはずです。

テレワークにこだわるのは危険です。何がどう問題なのか。この記事では、さきラボでテレワークを推奨しない理由を紹介してみたいと思います。

コミュニケーションロスが発生する

人間は、コミュニケーションの大部分を「非言語コミュニケーション」に頼っています。

非言語というと、多くの人は、会話をしている時の「表情」とか「声色」とか「しぐさ」とかを思い浮かべるようです。そして、そのような考え方は間違っています。多くの人は、人間が何をどう認知してコミュニケーションしているのかを知らないし、それを自然に知覚することもできません。

心理学を勉強している人にとっては、簡単な話です。非言語コミュニケーションは暗示の一種で、それは「前提」です。会話するより前に、ただ「そこに居る」というだけで、人間はコミュニケーションしています。本人が理解できているかどうかというのは、全く些細な問題です。

今のところ、テレワークでは「会話+α」しか再現できません。人の存在感など、非言語コミュニケーションの大部分は再現できません。そして、多くの人は「非言語コミュニケーションの大部分を再現できていない」ということに、気がついていません。

例えば「この機能はもう少し高速化したほうがいいね」みたいな話があったとします。「この機能」とはどの範囲なのか、「もう少し」とはどの程度のか、「したほうがいい」とはどのくらいの重要性なのか…

テレワークでは、普段と同じように話をしても、普段と同じようには伝わりません。そして、普通の人は、何が伝わっていて何が伝わっていないのかを知覚することができません。

さきラボでは、常に新しいシステムやソフトウェアを開発しています。何度も繰り返されている作業と違って、新しい取り組みというのは、実際にやってみないと何をどう言語化すればいいのかもわかりません。

それでも普段、私たちがチームで開発ができているのは、人間に非言語コミュニケーションの能力があるおかげです。言葉だけでシステム開発を進めるとしたらそれは、目を閉じて、耳を塞いで、鼻をつまんだ状態で食事をするようなものです。まともな結果は得られません。

計画性が低下する

家には家の雰囲気があるように、カフェにはカフェの雰囲気があるように、会社には会社の雰囲気があります。多くの会社には「仕事をする雰囲気」があるはずです。

人間は社会的な生き物なので、その行動は雰囲気に大きな影響を受けます。実はこれも、非言語コミュニケーションの一種です。本人がそれを理解しているかどうかは関係ありません。現実として、普通の人は、テレワークで会社と同じように仕事をすることはできません。

一般的なテレワークでは、プライバシーの問題や、画面上のスペースの問題から、常にマイクやカメラを接続しておくことは困難です。家に子どもが居る場合など、対応できない時間帯もあるでしょう。その結果、会社に居るときは「17時頃までに…」という話でよかったところ、テレワークでは「16:45 に」というように、時間を正確に決めるシーンが増えてきます。

普段とは違う環境の中、決められた時間までに何をどのくらい進められるのか…この見積もりが正確であれば、チームは計画通りに行動し、成果を上げることができるでしょう。逆に、正しい見積もりができなければ、チームとして計画的な行動をすることは難しくなります。

残念ながら普通の人は、自分が環境や雰囲気からどのくらいの影響を受けているのか、どのように行動が変化しているのかということを、気にしていません。そのため、環境の違いを考慮して仕事の成果を正確に見積もることはできません。さきラボの実績では、見積もりを練習していない人の場合、テレワークについては時間を3倍くらい過小に見積もるということがわかっています。

IT業界には「プログラマーの進捗は常に90%である」という説があります。これも、多くの人が環境による影響を把握できないことで発生する現象の一つです。プロジェクト全体の進捗に合わせて周囲の状況(環境)は変化しますが、普通のプログラマーは変化に対応した見積もりができません。他のメンバーが、見積もりできていない部分に気付くこともありません。結果として「進捗は90%である」という間違った結論が罷り通ってしまうことになります。そして、間違った進捗報告は、プロジェクトの計画性を破壊します。

テレワークでも同じような問題が発生します。終わるはずの仕事がいつまでも終わらず、計画的な仕事ができなくなります。

費用がかかる

コミュニケーションロスによる問題や、計画性の低下による問題は、回避したり軽減したりすることができます。しかし、対応には手間がかかり、費用も発生します。

テレワークを導入しても事務所がなくなるわけもなく、固定費は殆ど変わりません。通勤がなくなることが大きな違いに思われがちですが、多くの企業は通勤の時間を業務として評価していないため、テレワークによって削減できる費用は交通費くらいです。交通費を削減しただけでテレワーク対応費用を捻出するのは難しいのではないでしょうか。

テレワークにかかる費用は他にもあります。会社の PC を持ち出しできるようにする場合、追加のセキュリティ対策が必要になるかもしれません。各自が自分の PC を利用する場合は、追加のソフトウェアライセンスが必要になる場合もあります。

誰が費用を負担するのでしょうか。お客様が支払ってくれるのでしょうか。従業員の給与を削減すればいいのでしょうか。どちらも現実的とは思えません。簡単にテレワーク対応できる業務に限ってテレワーク対応するというのは、現実的な選択です。

自由に動けない

労働基準法によると、一部の例外を除き、従業員の労働量は成果ではなく時間で管理することになっています。そして、労働の時間には様々な制限があります。会社は常に、従業員の時間を管理していなければなりません。

時間を管理する方法は会社によって様々です。最初からテレワークに対応できる仕組みになっていればいいのですが、多くの会社はそうなっていません。例えば、テレワークで「出社時刻」「退社時刻」を管理するというのは、現実的ではありません。

テレワークの導入にあたって、会社の側が、労働時間を管理する仕組みを変更できる場合には問題ありません。しかし、誰がテレワーク対応の仕組みを作るのでしょうか。費用は誰が出すのでしょうか。多くの企業が「テレワークで働く人が会社の仕組みに合わせる」という方法を選択するのは、仕方のないことかもしれません。そして、テレワークで在宅勤務する人は会社の都合と家の都合の板挟みになって、とても動きにくい状態になってしまうのです。

なぜ、さきラボはテレワークに対応しているのか

テレワークに問題があるなら、テレワークしなければいい、はずです。ではなぜ、さきラボはテレワークに対応しているのでしょうか。

さきラボでは、他社ではできない (同じ成果を出すために費用が何倍も違ってくる) 仕事を数多く手がけています。それが工場向けのシステムであれば、現場へ行くためには時間も出張費もかかります。仕事の難易度は高く、現場の近くの人に外注するということもできません。

さきラボの場合は、テレワークに対応したかったわけではなく、リモートでの作業に対応したかったのです。

リモートでの作業を円滑に進めるためには、様々な工夫が必要です。さきラボでは、複数のツールや手法を、案件やメンバーによって使い分けています。さきラボには様々な用意がありノウハウもあって、一見するとテレワークで何でも対応できるように見えます。実際、さきラボにおけるテレワークの効率は、一般的な会社のそれを大きく上回っているはずです。それでも、さきラボではテレワークを推奨していません。

さきラボにとって、テレワークは「必要な時に用いる手段の一つ」であり、仕事のスタイルではないのです。

テレワークは白でも黒でもない

テレワーク 1% だった会社を突然 テレワーク 100% にして、上手くいくでしょうか。

例えば、陸上 400m の選手が練習もなしにフルマラソンを走ったら上手くいくでしょうか。0.4km が 40km に、距離が100倍になるだけです。恐らく、上手くいかないでしょう。

同じ「走る」でも距離が違えば走り方が違ってくるように、出社してオフィスで仕事をするのと、テレワークで在宅勤務するのとでは、同じ仕事でもやり方を変える必要があります。何も考えずにテレワークを導入すれば、上手くいくはずのものもダメになってしまいます。

この記事では、さきラボがテレワークを「推奨しない」理由を書きました。しかし、私たちはテレワークを「活用する」ことには積極的です。今の技術では上手くいかないことも、何年か後には改善しているかもしれません。

人間の能力は突然変異しません。でも、IT の技術は日進月歩です。そして、テレワークには取り組む価値があると、さきラボでは考えています。目先の仕事で白黒を決めつけることなく、長期的な視野で、テレワークに取り組む会社が増えることを願っています。

この記事の投稿者

崎 洋佑
崎 洋佑
さきラボの代表取締役。自称プログラマーもどき。
開発でよく使う言語は日本語。
IT技術よりも人が好きな、天然物のエンジニアです。