前例のない自動販売機の開発

さきラボでは普段から、前例のないシステムの開発に取り組んでいます。ただ新しいのではなく、実用的かつ革新的なシステムを作っているのが、さきラボの特徴です。

ここのページでは、公開できる事例の一つ、小林縫製工業の「QRはいどーぞ」について紹介してみたいと思います。

「QRはいどーぞ」

QRはいどーぞ」は、インナーメーカーである小林縫製工業が開発した、女性下着を販売するための自動販売機です。小さく軽く、温浴施設の脱衣所やゴルフ場のロッカールム内で、適当な棚の上に設置できるように作られています。

消費電力も少なく、Wi-Fi に対応しているため、コンセント一つあればどこにでも設置できます。現在も改良中ですが、栃木県内では数カ所の施設で、既に稼働しています。

写真を見て、あなたはどう感じたでしょうか。普通の販売機に見えましたか?

始まりは展示会での出会いから

事の発端は、小林縫製工業の代表である小林さんが、とある展示会で「さきラボ出張所」に立ち寄ったことでした。

『QR コードとか、キャッシュレスの決済って作れますか?』

ここ数年、さきラボでは展示会の出展に際して、特定の技術や製品ではなく「実際の開発の様子」を展示する「さきラボ出張所」をによる展示を実施しています。オフィスのような作で、その場での打ち合わせも可能です。とは言え、決済システムを作りそうな展示はしていなかったはずなのですが…

『下着の販売機を作りたいんですよ。温泉の脱衣所とかゴルフ場で、その辺の棚の上に置けるようなものが欲しくて。』

なるほど、面白そうな話です。ちなみに、この時はまだ筐体やメカを別のところで作り、さきラボでは決済システムだけを作るという話でした。

開発前の課題

ところで、なぜ販売機を作らなければならなかったのでしょうか。それは、販売機を作る前の販売方法にありました。

販売機を作る前、小林縫製工業の「百年ショーツ」は以下のような状態で無人販売されていました。キレイなケースですね。しかも小さい。これなら「脱衣所に置く」という話も納得です。

しかしこの無人販売ケース、鍵が無いんですね。脱衣所の中では監視カメラも設置できません。購入者の理解と良心に頼る販売方法です。

そのため、場所によっては商品だけがなくなってしまうこともあったとか。なくなっても数点なので、意図的に盗まれたのかどうかは分からない、販売されているということが分からずに持っていってしまった人も居るのではないか、という話でした。

アイデア出しと開発内容の見直し

開発を始めた頃に確認しているのですが、この話をすると殆どの人は、以下のような販売機を思い浮かべるようです。

ロッカー型の販売機は、小型のものも含めて既製品があります。ただ、小林縫製工業でこれを利用することは、現実的ではありませんでした。

  • 扱える商品点数が少ない。取り扱い点数の多いタイプは大型になり、無人販売ケースと置き換えができない。
  • 小型のロッカーは釣り銭に対応していないため、本来の商品価格を設定できない。
  • 商品とのバランスで、商品が安物に見えてしまう。
    • 小林縫製工業の主力製品である「百年ショーツ」は 1,000円台前半 で販売されてます。製品としての作りはしっかりしていて、包装は簡易的です。製品を手に取ってみれば、それが丁寧に作られているものだと分かります。しかし、これをロッカーの中に入れると、人間の脳は「ロッカーの扉をパッケージの一部のように錯覚してしまう」ため、安物に見えてしまうのです。

他にもいくつかのアイデアがありましたが、どれも一長一短でした。

  • RFID で管理する方法。メカは最小限で済みますが、商品の出し入れにするアンテナ設計が必要です。
  • 重さで管理する方法。これもメカが少なく済みますが、パッケージの変更が発生した場合の対応が面倒です。商品が軽いのも難しいところです。
  • スパイラル式の販売機を利用する方法。色別サイズ別に棚が必要となり、かなり大型になってしまいます。

ちなみに、さきラボではどの方式でも(無線でも重量センサーでもモーター制御でも)対応が可能です。

しかし、普通の会社はそんなに柔軟に対応できません。この段階で、筐体とメカの開発を担当する予定だった会社は「事前に大まかな構造が決まっていないと開発できない」ということで、開発から外れることになります。

商品ロックという提案

筐体とメカを誰が作るのか、検討することも難しい状態でどう開発を進めるのか。普通は「そんな開発はできない」という話になるところだと思います。

ここで、さきラボは「商品ロック」を提案します。商品を一つずつ保持する仕組みを作って、その使い方は後で考えようという作戦です。そんな「話は分かるけど具体的に何が出来上がるのか分からない作戦」に、小林さんは OK を出します。

そして、実際に開発されたのが、上記の商品ロックです。既製品のロックと、専用の制御基板、3Dプリンタで製造したケースを組み合わせて作られています。プリント基板やケースの他、専用ハーネスや決済システムと接続するための I/F も、さきラボで設計しました。

筐体の検討

商品ロックが出来上がっても、商品を管理できるだけで、販売機にはなりません。筐体が必要です。しかし、筐体を開発できるメーカーは見つかっていません。

出来上がった「商品ロック」の試作版を利用して、さきラボと小林縫製工業とで筐体の検討をした結果、1つのアイデアに辿り着きます。

「3つくらい重ねて並べると、それっぽいのでは?」「これが並んでいたらアパレルの棚っぽいのでは?」

さきラボの崎が、その場で重さを概算し、固定方法に当たりをつけて「たぶん、アルミ複合板で大丈夫」「フレームは木工でもいける」という話を小林さんに伝えます。一般ユーザーが操作する販売機という性質上、絶縁、アース、難燃性などの要件もありますが、現実的なコストで対応できそうだということも、この時に検討しています。

話が決まると、小林さんの行動は迅速でした。小林さんは、小林縫製工業が出展する展示会で、カンダ木工の神田さんと出会い、筐体の製造を依頼します。この行動力、メーカーの鑑ですね…!

試作機

「商品ロック」と「筐体」の試作品が完成して、試しに組み立てたのが以下の写真です。ちなみに、全体の構造をカンダ木工が、寸法等の仕様をさきラボが、全体のデザインを小林縫製工業が、それぞれ担当しています。

この時の試作機は、初期バージョンの販売機と比べると、以下のような違いがあります。

  • ディスプレイと制御基板が、コントロールボックス(足下の白い箱)に格納されています。コントロールボックスは板金の箱です。さきラボで設計しました。
  • 商品ロックを外から固定するブラケットがありません。なお、写真で商品ロックの上に穴が空いているのは、ブラケット追加を想定して商品ロックの位置をずらしているためです。
  • パネルのデザインが調整されていません。展示用のパネルそのままで、位置が合っていません。
  • フレームの色がピンクになっています。正式版では、より落ち着いた色になっています。
  • 決済機能が実装されていません。

初期バージョンになるまで

試作機は十分に「それっぽい」のですが、試験販売で使えるようにするためには、まだまだやることがあります。具体的には、以下のような調整や開発がありました。

  • 決済サービスの検討、契約のサポート
  • 決済処理用のサーバーと VPN ネットワークの構築を含む、決済処理の実装
  • 決済処理と連係動作する、販売機の内部制御を実装
  • 管理画面や品出し機能の実装
  • 商品ロックブラケットの改良
  • コントロールボックスを一体化する筐体の提案と、ディスプレイブラケットの開発

技術領域と難易度

ここまでの開発で利用されている技術をまとめてみます。

  • ハードウェア開発
    • プリント基板の設計 (DipTrace) とハンダ付け
    • 電線やコネクタの設計と実装
    • 3D CAD (Autodesk Fusion) による樹脂部品と板金部品の設計
    • タッピングねじ等を活用した組み立て方法の設計と、実際の組み立て
    • 電気安全や熱容量に関する設計
  • ソフトウェア開発
    • 商品ロックの制御ソフト開発 (Python)
    • 販売機の決済画面開発 (Linux, HTML/CSS, Python + Sanic)
    • 決済サーバーと VPN 構築 (Linux, nginx, SoftEther VPN)
    • 管理画面開発 (PHP)
    • 設置先での環境調査とセットアップ

さきラボでは、個々の技術については「その道の専門家が、初見で修理や調整ができる程度の難易度にすること」を一つの目安としています。また、技術の組み合わせもあまり複雑にならないように気をつけています。

そのため、出来上がったシステムの運用は、それほど難しくありません。

前例のない開発ができる理由

さきラボでは「一人屋台方式」によるシステム開発を実践しています。「QRはいどーぞ」については、その殆どを、代表の崎が一人で提案して作っています。

「一人屋台方式」は、技術者個人のスキルセットや世界観によって「システム開発の全体を最適化する」さきラボ独自の開発体制です。この体制により、様々な領域を横断するコストをゼロにすることができます。非常に効率の高い開発体制ですが、普通の会社がこれを真似することはできません。

「一人屋台方式」では、技術者によって、作り方も成果も違ってきます。その結果、普通の会社では以下のような点が致命的な問題となります。

  • 開発に問題が発生した場合、会社としてフォローすることができません。
  • 運用保守に問題が発生した場合、会社として対応を続けることができません。
  • 何をどう作るのか分からないと、それを売ることができません。
  • どんなスキルが必要になるか分からないと、求人と採用ができません。

会社という組織を運営するために、技術者としての最高の仕事はできないというのが、普通の会社では「当たり前の制約」なのです。では、普通の会社ではなかったらどうでしょう。さきラボはどうなっているのでしょうか?

  • 何かあったら、代表の崎が何とかします。
  • 誰でも運用できる設計で、運用保守の問題を回避します。
  • 営業は居ません。技術者がお客さまに直接提案します。
  • 会社の規模は最大でも10名未満を想定しています。

「前例のない開発は、前例のない組織から」といったところでしょうか。かなり力業ですが、これで10年以上続いているのだから、面白いですね。

お気軽にお問い合わせください

「QR はいどーぞ」の開発では、最初の検討から初期バージョン 8台 の製造と設置まで含めて、総額 800万円 もかかっていません。

「やりたいことはハッキリしているけど、具体的なことはまだ決まっていない」「メーカーに見積もりを依頼したら2,000万円以上かかると言われてしまって予算が足りない」という場合には、さきラボで面白い提案ができる可能性があります。

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この記事の投稿者

崎 洋佑
崎 洋佑プログラマーもどき
さきラボの代表取締役。自称プログラマーもどき。
開発でよく使う言語は日本語。
IT技術よりも人が好きな、天然物のエンジニアです。